ライブドア事件から学ぶ

ライブドア事件からの教訓

『ルールに書いてないから、やっても良い』はダメ。

ルールは規制すべき事項を全て網羅していない。
ルールに記載していない事は、ルールの趣旨に従って判断しよう。

 ライブドア事件は、多くの論点があるが、今回は会計不正のうち、『連結の範囲』のみを対象としている。
 また、以下の記事は、ライブドア事件を独自調査した結果でなく、書籍・新聞記事・公共機関からのリリース等を参考にして記載している。

連結財務諸表のイメージ

・財務諸表とは、皆さんの学生時代の通信簿・通知表に相当する、一定期間における成績表である。
・連結財務諸表とは、会社単体でなく、グループ会社全体の財務諸表である。
・連結財務諸表には、原則として、全ての子会社を含めなければならない。

ー イメージ ー
・ライブドアには、子会社であるA社がある。
・ライブドアの売上高は 100億円であった。A社の売上高は 80億円であった。
・A社の売上高 80億円のうち、50億円は親会社である、ライブドアに対する売上高であった。
・ライブドアの連結財務諸表における売上高には、ライブドアの売上高 100億円とA社の親会社以外に対する売上高 30億円が集計され、連結売上高が 130億円となる。
・つまり、連結財務諸表とは、グループ会社内の取引を無かったものとして作成されるものである。

ライブドア事件の概要

・ライブドアは、子会社が保有する投資事業組合(ファンド)との取引を、連結財務諸表に売上高 約50億円として計上した。
・ライブドア事件の発生前の会計基準において、ファンドを連結の範囲に含めるべきかが不明瞭な状態があった(*1)。
・ライブドアの連結財務諸表に粉飾があるとの報道がなされた。
・2006年1月に、東京地検特捜部がライブドアに強制捜査を行い、のちに経営陣から4名の逮捕者が出た。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%A9%E3%82%A4%E3%83%96%E3%83%89%E3%82%A2%E4%BA%8B%E4%BB%B6

(*1) 『特別目的会社を利用した取引に係る会計基準等の設定・改正に関する提言』日本公認会計士協会監査・保証実務委員会 2005年9月30日公表 において、『特別目的会社を利用した取引については、・・・監査実務上、判断に迷う事例も多く見受けられる。』と記載されている。なお、特別目的会社と投資事業組合は、ファンドという点で共通している。
 また、ライブドア事件等の不正会計事件を受け、 企業会計基準委員会は、2006年9月8日に『投資事業組合に対する支配力基準及び影響力基準の適用に関する実務上の取扱い』を公表し、ファンドの連結範囲判定の厳格化等を行っている。

不正のトライアングル分析

― 動機 ー 
・当期利益至上主義
 ライブドアは、堀江氏が東京大学在学中に設立した。インターネット事業により、業績を急拡大し、東証マザーズに上場を果たした。ライブドアは上場後、時価総額世界一の会社とする事を目標とし、インターネット関連事業よりも、効率的かつ巨額の利益が得られる可能性のある、M&A等の投資事業に注力していった。ライブドア事件が明らかになる頃には、ライブドアの連結財務諸表における、営業利益の80%を超える金額を投資事業により獲得していた。時価総額世界一となるためには、当期利益を成長し続ける必要がある。よって、ライブドアは、当期利益を水増しする不正を行う動機があったものと思われる。

ー 機会 ー 
・内部統制の無効化
 一般的に『連結の範囲』を決定するのは、経営陣である。経営陣が不正を行おうとする、動機を持つ場合、会社の内部統制(*2)が無効化される事がある。なぜなら、内部統制は会社の経営陣が作成するものであり、経営陣が個人として又は共謀して、内部統制を無効化しようとする場合、容易に無効化できてしまうためである。ライブドア事件は、経営陣により行われた不正であり、内部統制の無効化は可能である。

・会計基準の未整備
 上記『ライブドア事件の概要』に記載したとおり、会計基準において、ファンドを連結の範囲に含めるべきかが不明瞭な状態があった。以下にて記述する連結財務諸表作成の趣旨を経営陣が理解していないと、ファンドを連結の範囲に含めなくてよい。つまり『ルールに書いてないから、やっても良い』という誤った判断に陥る可能性がある。
 よって、ライブドアは、連結の範囲を操作する事により、当期利益を水増しする不正を行う機会があったものと思われる。

ー 正当化 ー
・時価総額世界一は株主のため
 時価総額は、換言すれば株主が保有する経済的価値の合計である。よって、ライブドアが時価総額世界一になれば、利益を得るのは株主に他ならない。但し、ライブドアの大株主は堀江氏であったため、株主利益 = 堀江氏の利益という構造があり、堀江氏が自己の利益の為に、不正を正当化する可能性もあったものと思われる。
 また、上述のとおりライブドアは、多くのM&Aを行ったが、その手法の一つに株式交換という手法が用いられている。株式交換とは、ライブドアが会社を買収する際、 被買収会社の株主に、買収の対価として現金でなく、ライブドア株式を新たに発行するというものである。この取引を既存株主の立場から見ると、ライブドアに対する保有比率が希薄化してしまうという不利益を生じる。つまり、ライブドアは株主利益を軽視する手法を行う会社と整理する事も可能である。
 最後に、当時のライブドアの幹部が「ライブドアは法律の抜け穴を探し、実行する危うい企業風土がある」という趣旨の証言をしているとの事である。この様な企業風土があれば、 『ルールに書いてないから、やっても良い』 と不正を正当化する姿勢があっても当然であろう。
 よって、 ライブドアは、当期利益を水増しする不正を正当化する姿勢があったものと思われる。

ー 総括 ー
 以上より、ライブドアは、当期利益を水増しする不正を行う、動機・機会・正当化の全てがあったものと思われる。

(*2) 内部統制とは組織の業務の適正を確保するための体制を構築していくシステム(制度)を指す。すなわち、組織がその目的を有効・効率的かつ適正に達成するために、その組織の内部において適用されるルールや業務プロセスを整備し運用すること、ないしその結果確立されたシステムをいう。コーポレート・ガバナンスの要とも言え、近年その構築と運用が重要視されている。内部監査と密接な関わりがあるので、内部監督と訳されることもあるが、内部統制が一般的な呼び名となっている。  出典:Wikipedia

連結財務諸表作成の趣旨

 会計基準は、連結財務諸表作成の趣旨の一つを『連結財務諸表は、企業集団の状況に関する判断を誤らせないよう、利害関係者に対し、必要な財務情報を明瞭に表示するものでなければならない。』(*3)としている。換言すると、『連結財務諸表にはライブドアグループの実態を反映してください。そうでないと株主及びステークホルダーが適切な投資意思決定ができなくなってしまいます。』というものである。
 仮に会計基準に詳細な規定がない場合には、この連結財務諸表作成の趣旨に立ち返って判断する事が必要になる。ライブドア事件においては『ライブドア事件の概要』に記載のとおり、ライブドアの子会社が保有していた、投資事業組合を連結の範囲外とする事により、 会計不正を行った。ここで、投資事業組合はライブドアの子会社が保有していた事から、ライブドアグループである事は明らかであり、連結の範囲とすべきであった事は言うまでもない。
 また、ライブドア事件の第1審及び控訴審においても『本件各組合のいずれもが、会計処理を潜脱する目的を有し、・・・』としており、投資事業組合はビジネスの必要性があり組成されたものではなく、当期利益を水増しするために組成されたと認定している。法的観点からも、連結財務諸表にはライブドアグループの実態を反映すべきと整理されたものと思われる。

(*3) 企業会計基準 第22号『連結財務諸表に関する会計基準』11項より

最後に

 ライブドア事件は、メディアに大きく取り上げられ、社会にも大きな影響を与えた。また、堀江氏は懲役2年6ヶ月という重い刑を処せられた。ライブドア事件以降も不正会計等の犯罪は跡を絶たないが、堀江氏の懲役は群を抜いて厳しいものと思われる。不正会計事件の中でもライブドア事件が群を抜いて悪質であるとは思えないが、堀江氏に対する社会的注目度も判決に少なからず影響を与えていると思われる。強調しておくが、この点はあくまで私見である。
 また、ライブドア事件を契機としているのかどうかは、私は分析できていないが、私たち一般人の意識の中にも、当期利益至上主義に似た考えが浸透してはないだろうか。ネットやSNSでは「高年収」「株式投資・FX・ビットコイン投資により利益を得た」という記事を毎日、必ず目にする。もちろん高年収や投資により、利益を得る事は素晴らしい事である。但し、これらに盲目的に労力を費やすのでなく『自分の人生の趣旨』に従って、労力配分の判断を行ってみてはどうだろうか。
 それにしても、ライブドア事件が明るみにでた、2005年時点において、堀江氏が32歳の若者であった事。また、32歳の若者が時価総額 約1兆円の会社を作り上げたという事実には改めて驚かされた。今回の記事で、ライブドアに対し否定的な文章は、私の嫉妬が書かせたものであろう。

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